日誌

2023年1月の記事一覧

【柔道部】仲間入り

「あ、僕のだ。」憧れの先輩たちと同じ列に並んだ賞状に気づき、粕谷は静かに喜んでいました。鯉渕監督が勤務の合間に飾ってくださったのですね。

粕谷は、日本武道館で試合をしたかったんです、と、胸の内を明かしてくれました。目標にした舞台でどんな挑戦ができるか、浮ついた様子を全く見せず、誰よりも集中してストイックに稽古に励んでいます。体のケアや体重管理を含め、数カ月先をイメージした自分のコンディションをこれまで以上に考えるようになりました。

飯島は、誰よりも早く準備を済ませ入念に体をほぐして稽古に向かう様子があります。勝つために何をすべきか、自分のための稽古をより意識する中で、決してそれだけにならず気づく力も持っています。本日は中学生が参加しての練習でしたが「ほら、しっかり声出せよ」と、周囲に声をかけ、乱取りの雰囲気を高めようとする動きもするようになりました。

粕谷にしても飯島にしても、目指すものがハッキリしている子の稽古に取り組む姿勢は観ていてとても気持ちが良いものです。明日は県立武道館で埼玉県柔道選手権大会が行われます。この大会に出場するため、調整練習も兼ねてお兄さんと共に顔を出してくれた杢先輩は「2人とも本当に強くなりましたね、これからですね!」と、乱取りで組んだ感想を話してくださいました。

そういう彼らと自分はどこが違うか、どこを真似しなければいけないか、周りの部員は気づく力をもっともっと高めなければいけません。

年末の出稽古で監督から指摘された『チームの尖りと凹み』。これは団体戦に限らず、柔道部そのものに言えることだと思います。練習の雰囲気に、目立つ二人に近づくための個々の気づきが表れて欲しいです。

【柔道部】俺がやる!

大会がひと段落し、来季に向け改めて基礎から鍛え直す練習が続いています。昨日は稽古の後、様々な種類の体幹トレーニングと股関節を柔らかくするためのストレッチをじっくり時間をかけて行いました。

 

柔道の技術を落とさないために日々の稽古はとても大切。道場では、毎日空気感の変わる時間帯があります。飯島と粕谷の乱取りです。

追う側と追われる側。それぞれに伸び代があり、鯉渕監督が言われる『強くなるためにできること』を貪欲に求める2人の稽古は、他の部員が場所を譲るほど。本日は監督の指示もあり、試合場を使って切磋琢磨していました。

キャプテンもまた、県チャンピオンに近い選手です。指導を理解し実践する素直さが強さの理由のひとつ。こちらも頂点に立つための課題は明確です。お互いが強くなることを求めて手を緩めない緊張感が、全員に浸透してほしいと思います。

【柔道部】“考える”稽古

本日の道場にはオリンピックメダリストが。昨日の練習後「こういう経験ができるのは宮工だからだよ」と予告されてはいましたが、ご本人を目の前にして部員たちは一様に憧れのまなざしを向けていました。

校長先生も、ご挨拶をと、来てくださいました。

いらっしゃったのは、2012年ロンドンオリンピック銅メダリスト・西山将士さんです。鯉渕監督の先輩が西山さんと同じ大学の出身というつながりで、工業高校生の進路やキャリアについてお話を伺いたいとの相談を受け本日の練習が実現しました。このつながりが活きるのも、埼玉県の工業高校と言えば大宮工業高校というイメージを持たれているからだと思います。

時間をかけて教えて下さったのは大外刈りの練習。単に巧い選手の真似をするのではなく、どうすれば自分に合う形になるかを考えると練習は面白くなると前置きされ、個々に足の振り上げ方や速く強い刈り足の動きを確認させた後、相手の体勢の崩し方、技のつなげ方を指導してくださいました。鯉渕監督を含め、大人たちも関心をもって聞いていらっしゃいました。

高いレベルに挑戦するのを楽しむ3年生は積極的に当たりにいきます。剣道をされていた校長先生は、強い相手をヒマにさせちゃいけないんだよね、とうなずいていらっしゃいました。以前、監督が、来てくれている先輩に当たりにいかない下級生の練習姿勢を指摘されていましたが、そういうことですね。一方、腰を痛めてトレーニングに回っている1年・高橋は乱取りを見て「やりたかったな」とポツリ。だから、怪我をしない体づくりが必要なのです。

本日は埼玉新聞社の方も来校され、鯉渕監督も稽古を指導しながら取材に応えていました。

稽古後の挨拶で、鯉渕監督が改めて部員たちに伝えていた「考え方で幅が広がる」という西山さんのことば。柔道以外にも当てはまります。

記者の方のインタビューは練習後も続きました。初めて柔道を見たそうで、迫力ありますね!と感心されていました。どんな記事になるのか楽しみです。

一緒に稽古をした川口工業高校の皆さんとも一緒に記念写真。

この機会は今後もあるそうです。子どもたちに柔道がどう活きるか。子どもたちが柔道を活かすためにどんなサポートができるか。練習を通して理解を深めながら対話をしていきたいという西山さんのお考えに宮工生がどのように役に立てるか、今後の動向に期待です。

西山将士さん、本日はありがとうございました。

【柔道部】決意

トレーニング前、鯉渕監督からは大会の総括と来季に向けて取り組み方のお話がありました。

課題として示されたのは「強い体をつくる」こと。スタミナ、筋力、体幹はもちろんですが、怪我をしない体をつくることが1年を通して試合に出続ける最低条件です。

本日はロード外周から始め、懸垂、ウエイトトレーニング、腕立て、チューブトレーニングを織り交ぜて二時間弱のメニューをこなしました。ロード外周を先頭で帰ってきたのは、飯島、粕谷、佐川の3人。佐川は先輩にしっかりとついていっていました。

室内トレーニングの時間を長く取っているのは、根米と山﨑。

山崎は、過日の大会でチームの危機感を覚えたようです。現在の後輩のレベルを目の当たりにして先輩がいかに自分を鍛えてくれたかということに改めて気づいたと話し、自身が復帰するタイミングを図りながら、結果を出さなければという思いを強くしていました。主治医の先生からは順調に回復しているねと言われたそう。道着を着る日が楽しみです。

根米は、今大会を前に表情が変わった部員です。1年生の時は春季地区大会後、練習中の怪我で秋季以降の試合に出場できず、2年生のシーズンが始まってからも出場が叶わない状況が重なりました。新人大会で団体戦メンバーに選ばれた際には気合を入れて稽古に励んでいましたが、体調を崩して断念。体温計の表示を見て「悔しい」って泣いたんですと保護者の方から伺いました。この気持ちが、本人の覚悟をより強くしているのではないでしょうか。

 

明日からは、稽古やトレーニングのバランスを考えた練習日程になります。部員ひとりひとりがここまでの自分を分析し、主体性をもって励んで欲しいと思います。

【柔道部】強い宮工

14日、教員として後輩たちの試合を観戦してくれたのは岡安先輩。団体戦では疲労の残る部員たちを思いやってくださいました。その同級生で、ともに鯉渕監督の下で稽古を積み全国選手権にもそろって出場した杢先輩は、決勝の動画を観て「どちらもいい試合しましたね!」とコメントをくださいました。

こうした先輩方の思いはとてもありがたいです。

15日の団体戦、居ても立ってもいられなくなり、試合場に降りて島村に必死にアドバイスをしてくれたのは水島です。重量級の後輩を育てるのが役目と思ってくれているからでしょうか。準決勝の結果に「悔しいんだよなあ」と言ったのは長瀬。たとえ練習試合であっても、納得がいかないと自身に腹を立て涙を流すほど気持ちの強い選手です。

一緒に稽古をしてきた先輩の後ろ姿を真似るところから、自分を鍛えることは始まるのではないでしょうか。

怪我をして試合を離れている山﨑は「自分が出てたら……」と申し訳なさそうに口にしていました。

チームの力になれない不甲斐なさは責任を感じているから。ただ、こんな一言を言わせてはいけません。

 

強い宮工がどうやって継承されたか。それはやはり、ひとりひとりの「強くなりたい」思いの結集ではなかったかと思います。

卒業生の話では、レギュラーでない部員は本立ち乱取りができなかったとか、レギュラーの部員がそれ以外の部員を練習相手にしないから汗をかかないで終わる日もあったとか、シビアな現実があったそうです。そういう環境に身を置いていると“宮工で柔道をする覚悟”が自ずと芽生え、強くなるために何をすべきかを考えるようになる、それが自分を育ててくれたと語ってくれた方もいます。卒業生たちの3年間を伺っていると、強いからこそ宮工柔道部の一員であるという信念をもって稽古に励む緊張感が常にあったのだと感じます。また、それまで自分を軽くあしらっていた先輩が、結果を出した途端、手のひらを返したように態度が変わったと言う経験をされた方もいらっしゃいました。強さに先輩も後輩もない、『強いことが誇りのチーム』を裏付けるエピソードではないでしょうか。

今回、頂点を目指した飯島と粕谷の稽古の雰囲気は明らかに違っていました。その空気を感じ取った部員がどれだけいたか。真剣に2人を追う1年生が何人いるか。「強い宮工」をつくるのは部員たちです。

疲労の回復を図るため、今日まで3日間のオフ。大会後の監督の言葉を振り返り、明日のトレーニングから意識の変化が見られることを期待します。

【柔道部】コーチボックス

畳の上に立ったらひとり、と送り出された7名の選手。1月14日(土)は、全国選手権埼玉県予選(個人戦)でした。

宮工の選手は4つの試合場に散らばり試合に臨みました。2回戦以降はほぼ同時のタイミングで畳にあがる部員たち。監督は試合場をスライドして檄を飛ばしていました。コーチボックスでじっくり観ることができたのはごくわずか。選手たちは短い時間に聞こえる監督の声を勢いに変えて、果敢に攻めます。

66kg級には4人の選手が出場し、秋季地区大会でワンツーを飾った飯島と粕谷は丁寧な試合運びで勝ち進みました。先に決勝進出を決めた粕谷は飯島の準決勝戦を見守り、勝って畳を降りた飯島と握手。鯉渕先生に言われた通りにできたね、と声をかけました。「県大会も2人が引っ張っていけ」という言葉を覚えていた飯島も、よし、やるぞ、と、短く答えて集中を高めます。

決勝戦を待つ間「この試合どういう気持ちで見ればいいんだろう、って監督が呟いていましたよ」と、他校の先生が教えてくれました。どちらの実力も理解しているだけに、“一人”が決まる場に立ち会うのは複雑です。

同門の試合は他校の選手であっても見守るのみ。鯉渕監督もコーチボックスに入らず、離れたところから見届けました。互角の勝負の軍配は粕谷に上がり、昨年度の須川朝陽に続き、ー66kg級で2年連続の全国選手権出場を決めました。 

表彰式の後、監督は、決勝で競れたことはよかったと、噛み締めるようにお話しされていました。出場した1年生には可能性や手応えを感じた者もいたようです。それを確実なものにするために負けた試合を個々が振り返り、やるべきことを自分に課さなければなりません。

 
15日(日)の団体戦は、新人大会の課題を克服するチャンスでした。

ウォーミングアップに先立ち、監督は「昨日の試合は一旦忘れる、団体戦の頭をつくろう」と伝えました。団体戦は一試合ごとに選手の入れ替えが可能なオーダー戦。互いに予測が難しい今回の試合は『取る人が取ってくる』が絶対条件です。

初戦に勝ち、ここから加速するぞと鼓舞された選手たちは他校の試合進行を眺めながら気合を入れ直します。指定席に腰を据えた監督は「早く勝つ、きれいに勝つは考えない」と短く指示して選手たちを送り出しました。

 

前日の疲労は、できない言い訳になりません。動きの重さを自覚しながらも攻める手を緩めない飯島。ここまで期待されながらなかなか結果を出せないでいる1年の島村も、珍しく大きな声を出して一本を取りました。

正念場が続く選手たちに監督が伝えたのは「一歩踏み込んで冒険する」こと。その結果の負けは気にしない、試合の中で切り替える。できることをしっかりやり切る。試合の間隔が短い中で審判も務めながら、明確な言葉で選手たちのギアを上げます。

 

準決勝は新人大会で苦杯をなめたチームとの対戦でした。相手は体格差のある選手ばかりです。「運動量で勝つ、もっとできる」と監督から勇気をもらい、畳に上がりました。

定位置から響く監督の声にいつもなら顔を向けるはずが、焦りからか反応が遅れます。出番を待つ選手たちは仲間に声をかけ続けました。キャプテンの新井が必死に意地を見せ流れを引き込もうとしましたがチームとしてあと一歩が足らず、前回と同じ展開で負けを喫しました。

冬休みの出稽古の際、試合の内容が大切と繰り返し指導をされて臨んだ大一番。負け方が前回と変わらなかった今回の内容は「悪い」の一言に尽きるのではないでしょうか。納得のいく結果でなかったことは選手たちがいちばん理解しています。


悔しさを忘れないための写真です。

チームとして変えるべき部分を変えられなかったことが一番の敗因。試合後、3年生も含め全員が集まったところで「負けを受け入れる」「これくらいはできるだろうという甘い考えを捨てる」と話し始めた鯉渕監督は「足りないことが多い自覚をもつ」という一言で総括を締めくくりました。試合ができて良かった、3年間続けられて良かった、で満足するチームではありません。ひとりひとりの、自分がやる!という覚悟が強い宮工をつくるのです。


《試合結果》

個人戦

-66㎏級    粕谷 1位  飯島 2位  高橋 ベスト8

無差別級  新井  ベスト8


団体戦

川口市立 1−2 大宮工業

秩父   0−5 大宮工業

松山   0−5 大宮工業

武蔵越生 2−1 大宮工業   第3位

【柔道部】挑戦

基本の確認。

短めの乱取り。

体重管理。

やることはすべてやりきりました。

気持ちを切らすことなく、チームで勝ちにいきます。

 

いよいよ明日は、全国選手権予選。

【柔道部】元気出して!

乱取りが始まると道場に響く、この一声。

稽古の雰囲気を盛り上げようと、キャプテンを中心とした上級生から発せられることが多いこの一言が、本日は1年生の口からも聞かれました。県大会は、地区大会の上位者ほど追われる立場になります。挑戦を受ける側は挑戦するよりもしんどい試合が続きます。

最後に勝つのは「勝ちたい」気持ちが強い人。本日の道場には、ひとりひとりの良い緊張感が表れていました。

 

全国選手権予選まで、2日。

【柔道部】“整える”3日間

本日の代表者会議で、個人戦・団体戦とも対戦相手が決まりました。

目標が明確になると、やるべきこともより具体的になり、集中力も高まります。

楽な試合は一つもありません。ひとつずつ丁寧に確実に、山を登ります。

 

全国選手権予選まで、3日。

【柔道部】〇〇は身を助ける

試合数日前の運動量、食事、入浴時間…。部員たちにはそれぞれのこだわりがあります。

普段の練習でも同じ。たとえば水分補給ひとつとっても、一度に多く取るのでスクイズが空になるのが早い子もいれば、少量をこまめに飲む子、途中でスポーツドリンクに変更する子、お茶しか飲まない子、さまざまです。

小さいことかもしれませんが、自分で決めたルーティーンは、心を落ち着かせたり気合を入れたり、自分のペースを守るのに役立ちます。

 

全国選手権予選まで、4日。

【柔道部】3年生の支え•2

本日の稽古には水島と須川が参加してくれました。須川は昨年度の全国選手権出場者。2年生たちは競うように当たりにいっていました。

「勝つためにできること」を合い言葉に、ここからは強みの徹底、自分を助ける武器=“枝”を増やす、を意識して調整期間に入ります。

 

全国選手権予選まで、5日。

【柔道部】3年生の支え

昨日、練習に参加してくれたのは水島。乱取りはもちろん、本格的に体を動かし始めた山﨑の基礎トレーニングを観察し、細かくアドバイスをしてくれました。

今日、来てくれた深井は稽古の後に行ったラントレとダッシュも一緒に取り組んで、後輩たちを盛り上げてくれました。

 

鯉渕監督にとっては、とにかく体調不良者が出ないことを祈り神経をすり減らす毎日が続いています。出場選手が道場にそろわない状況は稽古の雰囲気にも影響します。そんな時、技術面でも精神面でもしっかりと練習相手になってくれる3年生の存在はありがたいです。

 

全国選手権予選まで、6日。

【柔道部】それぞれの選手権

カウントダウンボードの数字を変えるキャプテンの新井。

教え子たちの1位の賞状を見上げる監督。

決勝で戦うことを約束し、他校選手の研究に余念がない粕谷と飯島。

柔道場にはさまざまな思いが見え隠れします。

 

全国選手権予選まで、7日。

【柔道部】見えざる敵

年も明け、大会に合わせて仕上げをしようという時期。

柔道部ではインフルエンザが流行りつつあり、稽古の合間も手洗い・うがい、水分補給の声かけをこまめにしています。この時期の体調管理は慎重の上にも慎重に。大げさなくらいがちょうどいいのかもしれません。

好んで体調を崩す人はいませんが、ここに懸ける!という気迫や緊張感は“油断”を遠ざけます。採用試験や受験にも同じことが言えると思います。

最後は気力。

見えないものが自分の力にもなるし、それで足をすくわれることにもなるのです。

 

全国選手権予選まで、8日。

【柔道部】新たなスタート・2023

明けましておめでとうございます。

 

昨年の稽古初めは『論語』を題材に柔道の根底を考えました。2023年も柔道の内にあるものを改めて意識することから始めたいと思います。

 

孔子の教えをまとめた『論語』。ここに著された儒学の教えは、弟子たちが発展させて社会に広められました。そのひとりが孟子。「仁は人の心なり( 思いやりの心はすべての人がもっているものである)」と説き、性善説を唱えた人物です。

性善説とは「人は生まれながらに『善』を備えており、それに向かう心をもっている」という思想で、孟子は心の到達するところを「四徳」に示しました。四徳とは、

仁…困っている人を助けようとする憐れみの心

義…悪いことをするのを恥ずかしいと思う心

礼…譲り合い、他人を敬い、慎む心

智…物事の善悪を判別する心

という4つの心根のこと。孟子は、世の中が安定するには人の心が安定していることが大切だと考え、道徳的な判断力を重視したのです。

(余談ですが、「四徳」を高め常に道徳心を養っている人のことを大丈夫(だいじょうふ)と言います。私たちが日常で用いる意味とは異なりますね。)

 

「道徳的な判断力」とは「みんなが気持ちよく過ごすために、どんな振る舞いができると良いか考えて行動に表すこと」と言い換えられると思います。

自分の物は自分で管理する・片づける、というのは幼い頃から躾けられる習慣のひとつ。ところが、自分が出したゴミは散らかしっぱなし、後輩に道着を洗わせる、お弁当を温めさせる。恥ずかしい話ですが、かつての宮工柔道部では、こんな習慣が常態化していたそうです。練習後に道場を掃除して施錠をするのは現在も下級生の役割ですが、以前は稽古の後、部室で遊んでいる先輩が帰るのを何時間も待っていなければならなかったという話も聞きました。これらはすべて、道徳心に欠けている例ではないでしょうか。今でも時折、手を借りなくてもできることをわざわざ後輩に “させる”上級生が目に入ることがありますが、そのような時は徹底して厳しく指導しています。「自分たちもやらされたからやらせる」で続く習慣は無意味な伝統ですし、それは、強さを求めるうちにそれが権力になってしまったひとつの過ちのように感じます。

 

私たちの生活にはルールがあります。

スポーツにもルールがあります。

なぜか。「こうできるといいね」 と考えて実行する人たちの中に「これぐらい、いいじゃん」 と思う人が少なからずいるからです。

たとえばコロナ禍以降、団体戦の際に道着で試合場に入る選手の人数には規定が設けられました。試合をする人以外はマスクをする、選手以外は観客席で応援する、などの決まりもありましたが、毎回、守られていない場面が見受けられました。また、柔道に限らず、勝ち負けのある競技で戦う中、隙をついて狡いことをするのも戦術と考える人もいるのではないでしょうか。

注意されなければ近くで応援してもいい。

近くで観戦したいけど我慢する。

ずるをして勝った。

負けてしまったけれど堂々と戦えた。

下級生は先輩のために動いて当たり前と思う。

年下の者が有効に時間を使えるよう気配りをする。

きれいごと、理想論、と言ってしまえばそれまでかもしれません。けれど、どちらが嘉納治五郎が教育に組み込んでまで残そうと考えた「柔道」の理念に沿っているか――答えは明白です。社会生活において、みんなが「こうできるといいね」と思いやりをもって過ごすことができれば規則やルールは必要ありません。きまりができるのは、自分の欲や主張を優先する人がいて、そういう人たちが増えると衝突が起こったり不愉快な思いをする人がいたりするからです。ただ、「これはだめ」「こうしなければいけない」と規制ばかりになるのは窮屈。だからこそ、他者を思いやる心が大切なのです。

 

孔子は「思いやりの気持ちを大切にして礼儀正しく生きましょう」と説きました。これが素地となって「精力善用」「自他共栄」の精神が生まれ、「善」が発展したのです。柔道の精神にも「善」が含まれているならば、それこそが柔道をとおして養える人間力ではないでしょうか。

部員たちは日頃の稽古で、鯉渕監督から「柔道以外の場所でどう見られるかが大切だよ」と諭されています。また、大会前日の練習後には「宮工は正しいことをしよう」の一言を伝えられています。年末にいらした卒業生の一人が「大学に入って、柔道が強くてもそれだけじゃダメなんだって分かった」と話していましたが、これは本人の学びに加え、内面を鍛えることが個々にとって本当の糧になるという監督の想いが教え子たちに浸透している表れだと感じます。

強い人が優れているのではありません。

自身の欲や損得から離れ他人の立場で考えられる人が優れているのです。

東京オリンピックの決勝戦、勝ち名乗りを受けたあと深々と頭を下げた大野将平選手。悔しい敗戦の直後、これまでと同じようにロッカールームを清掃し「ありがとう」の言葉を残したサッカー日本代表。彼らは褒められたいという欲でそのように振る舞ったのではないはずです。こうした行いは本来大袈裟に取り上げられるものではなく、「こうできるといいね」という日本文化の誇らしい道徳心であると同時に人格形成の道とされる柔道の根本にも通ずる部分のような気がします。

 

理想を体現するのは難しく、それだけではどうにもならないことも世の中にはたくさんあります。けれど、だからこそ、心を鍛えることが必要なのだと思います。「心技体」の所以もここにあるのではないでしょうか。

柔道のもつ伝統を大切にし、「こうできるといいね」を自然に実行できる宮工柔道部でありたいです。

本年もよろしくお願いいたします。